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熱帯魚 吉田修一著 文春文庫出版を読んでの書評。

熱帯魚 吉田修一著を読んでの書評。

 

 

熱帯魚 吉田修一著 文春文庫出版 平成15年6月10日第1刷

 熱帯魚は「熱帯魚」、「グリンピース」、「突風」の3作品からなる文庫本です。

 

「熱帯魚」は主人公である大工の大輔と同居している真実とその連れ子の小麦、義理の弟である光男の日常と、とある出来事から日常が崩れ自暴自棄になる大輔の心理描写を描いた話。

 

 「グリンピース」は求職中の主人公と彼女の千里とのギクシャクした関係と、一度関係が破綻して、また寄りを戻すという内容の話。

 

 「突風」はエリートサラリーマンである新田が長期休暇に九十九里の民宿に住み込みで働いて、民宿のご主人と奥さんなどの人間関係や出来事を描いた話。

 

 「熱帯魚」、「グリンピース」、「突風」、3つの話に共通して描かれていたのが、主人公の男性の心理描写である。「熱帯魚」は建築現場での出来事から現場で冷遇されて、自暴自棄になり、周りとの関係が粗野になっていく心のやさぐれ模様を描いている。「グリンピース」は千里の欠点ばかりに目がいき、千里との関係が一度破綻してしまって、その中で揺れ動く気持ち。「突風」はもう少し外界の出来事に文章表現の視点がある作品。

 

  作品を読んで共通しているのは、主人公の自己中心性。

 

「熱帯魚」は作品の後半の大輔の自暴自棄な態度や言動が、うまくいっていない人はこういう風に人間は変わるのだろうなという憐れみと、なかなか自暴自棄から抜け出そうとしない大輔への腹立たしさに、心が泡立つような読後感であった。

 

 「グリンピース」は、千里への細かな欠点に目が行ってしまい、そして千里に冷やかな、横暴な態度をとる主人公の気持ちになかなか共感できなかった。恋愛関係が成り立つのはお互い小さな欠点を我慢しあう事、事を荒立てない事、喧嘩しても仲直りして許すことだと思う私は、ここまで恋愛関係が破綻してしまって、それからまた仲直りできるかどうか自信がない。全力で目の前の人に優しくするしか能がない人間からしたら、こういう心理もあるのだと、自分には真似ができないとハッとさせられた作品であった。

 

 「突風」は気まぐれな新田が、九十九里という狭い人間関係の中で民宿の奥さんと縁を持とうとするが、ドライブで東京に戻ってきて九十九里をあっさり捨て去るという身勝手さが、人間とはそういうものなのかと哀しく思ってしまう作品であった。

 

 男性の細かい心理描写を読むたびに、人間とはかくも勝手な心理を持っているのか、自分は相手の心を泡立てることなく、周りに穏やかに大事に接したい、と反面教師として各主人公たちの心理描写を読んで思った次第である。