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東京湾景 吉田修一著 新潮文庫を読んでの書評。

東京湾景 吉田修一著 新潮文庫平成18年7月1日初版

 

東京湾景 吉田修一著を読んでの書評。

 

 あらすじ。品川埠頭の倉庫街で働く亮介が、携帯サイトの「涼子」と出会ってから、本気で好きになっていく様と、「涼子」と名乗った奈緒との恋愛模様を描いていく。最初は自分の身分も名前も偽って逢瀬を重ねた奈緒だったが、亮介との情事を重ねていくうちに、亮介に愛おしさを覚え、どんどん恋愛に飲み込まれていく。亮介には真理という彼女がいたが、躊躇なく心惹かれていた「涼子」を選び、また「涼子」に惹かれていく。亮介には10代に心焦がれた同棲した恋人がいたが、突然同棲の部屋から姿を消してしまった。その経験から自分をさらけ出すということを躊躇していた。また、奈緒も本気で心焦がれる恋愛はないと思っていたが、恋愛の渦中で本気で心焦がれることと、愛は消えてしまうものという葛藤の中で亮介との恋愛を進めていく。お互いの働いている場所が、お台場と品川埠頭という東京湾を挟んだものということで東京湾景という題がしっくりくる。

 

 作品中、亮介と奈緒、二人の主人公の視点から物語は展開する。亮介からすると、「涼子」は謎が多い、でも愛おしい、なかなか自分になびかないもどかしい、しかし愛しい存在。奈緒の視点でも物語は進み、同僚の佳乃との会話シーンで亮介側からは見られない、奈緒の仕事、恋愛、気持ちなど奈緒側から亮介に対する考え、気持ち、存在などの答え合わせをしている感覚になり、読者に一段上から二人の恋愛を俯瞰するような爽快感を与える。また、残りページが少ない中で亮介と奈緒の関係が最終的にどちらに転ぶのか、予断を許さない展開は読んでいて、もっとページがあれば!と思わされる。

 

個人的には、亮介が真理に対して『一緒にいたいじゃなく、一緒にいられる』という感情しか抱いていないと言ったところに共感をした。自分がどの程度本気で恋愛したのだろう、どの程度自分を相手にさらけ出せたのだろうと過去の恋愛歴を振返って、一緒にいられる程度の恋愛しかしてないことが多いことにハッとさせられた。もちろん、一緒にいたいと感じた相手もいたが、そういうときに限って相手から別れを切り出される、つくづく恋愛は双方向が恋愛感情を持っていないと成り立たないものだと思った。『好きでいたいけど、心が勝手に飽きたと言ってくる』は法則なのか、それとも永遠の恋愛はあるのか、というテーマも投げかけられている。

 

吉田修一の小説は短編しか読んだことがなく、しっかりとした恋愛小説は初めて読んだが、重すぎず、展開が飽きさせなく、感情描写や登場人物の現実感などもしっかりしていて、サラッと読める作品は著者の特徴であるが、もっと先を読みたいと思わせられた良著だと感じた。